60年代に建てられたマンション物件の改修計画。イラストレーターでエッセイストの自宅兼アトリエである。ここでは、まず、かつての住人がその場しのぎの改修を重ねてきたことで生じた不連続性、例えば部屋間の段差や敷居、あるいは不要な小壁や建具といった雑音のようなものを少しずつ整理していくことから始めた。「整理」とは、スケルトンにして完全に作り替えるのではなく、部屋の持っている記憶と良さを残しながら、新しい生活の「下地」を丁寧に作っていくことだった。そうした作業を進めていくうちに、この改修計画のもうひとつのアイディアが生まれた。部屋の連続性をつくるために無くした建具をカーテンに変えるということである。そのカーテンによって、柔らかく空間を仕切り、ファブリックの存在感によって空間にいきいきとしたリズムを作り出せると考えた。
　竣工後、住まい手の所有する数々の魅力的なモノ達が入り、計画の主役としてのカーテンと合わさった時、逆説的に言えば、インテリアそのものは、まるで何もしていないかのような、ずっと前からそうであったような雰囲気が立ち現れた。